AIライジングを見た感想とネタバレ解説です。2018年セルビアのSF映画。普通に見れば人間の男と女性型AIの恋愛ものです。

レビューは「面白くない」という否定的なものが多いですね。

●ただのソフトポルノ
●AVの方がまし
●セックスしかしてない
●宇宙の設定とか航海の目的とか無視
●なかなかの駄作
●B級SF以下!これはC級

まあひどい評価が並びます。

しかし僕はそうは思いません。なかなかの秀作だと感じました。

この映画の監督ラザール・ボドローザはスタンリー・キューブリックをリスペクトしているだろうなと感じるカット(宇宙や宇宙船外部の描写)もあり、映像は美しいです。

一方で、意図のよくわからないカットもあります。

例えば30分あたりに、ニマーニ(女性型アンドロイド)が上半身裸、黒いタイトなズボンを履いた状態で、無重力状態の宇宙船の中をクルクル回って遊泳するシーンとか。

このシーンがどこにつながるのか、何を意味しているのか、いくら考えてもわかりませんでした。

さらに、冒頭の意味深なセリフのやり取りがあまり物語の伏線になっていないという残念さもあります。

だから完成度はそれほど高いとは思えないのですが、それでも見方によって、この映画はとても示唆に富んだものになります。

映画は自分なりの意味付けをして見ると、より面白く見ることができるのです。

今回は、「AIライジングはどう見れば面白く見ることができるのか?」について解説していきます。

普通に見れば、誰が見ても、人間の男が女性型AIに恋をするという恋愛ものですが・・・あえてその見方を捨てます。

最初に結論的なことを書いておくと、この映画は、私たちに「人は”他者”の存在なしに生きていけるのか?」という問いかけをしているのではないかと勝手に解釈しています。

AIライジング作品情報

2018年製作/86分/セルビア

監督:ラザール・ボドローザ
製作:ジョナサン・イングリッシュ
製作総指揮:ゲイリー・ハミルトン
ストーヤ
セバスチャン・カバーツァ
マルサ・マイエル
キルスティ・ベステルマン

ニマーニ役は現役ポルノ女優のストーヤ。日本での上演は渋谷のみ。

日本にはあまりなじみのないセルビア共和国の映画です。

セルビア共和国はココ

AIライジングのあらすじ

いきすぎた資本主義により地球から国家が消滅して社会主義の世界となった2148年が舞台。

民間企業は社会主義を嫌い宇宙への移住計画を進めている。

ベテラン宇宙飛行士のミルーティンは、世界最大の宇宙開発企業エデルレジ社から約4光年先のケンタウルス座アルファ星への探査ミッションを依頼される。

いつもは一人で調査を行うが、今回のミッションにはエデルレジ社が開発した女性型アンドロイドのニマーニ1345が同行する。

容姿や性格などの全てをミルーティンの嗜好に合わせてプログラムされており、タブレットで性格のモードを変えることができる。

恋愛・誘惑・SEX・口論などなど。

ニマーニはミルーティンの任務を補佐するとともに、話し相手やセックスの相手まで務める。

しかし、長い宇宙生活の中で、全てに従順なニマーニに対し、ミルーティンは徐々に不満を抱くようになり、ニマーニを「人間の女」にするため、ニマーニのOSをアンインストールしようとする。

しかしそれにはエデルレジ社からアクセス権を獲得しなければならない。

そのため意図的に宇宙船でトラブルを起こし緊急事態を発動させる。

緊急事態への対処のためエデルレジ社から得たアクセス権でニマーニのOSを削除。

しかしミルーティンの思惑とは異なり、再起動したニマーニは、ミルーティンに対して反抗的で頑な態度を取り、性的関係を拒むようになる。

ミルーティンはニマーニをセックスドールとして扱ってきたことが原因で自分に罰を与えていると考えるようになり鬱になる。

調査任務の遂行を危惧したニマーニはミルーティンが鬱になった原因である自分自身を破壊するため自らの充電池を放電する。

ニマーニの異常に気付いたミルーティンは彼女の充電池を充電するため、危険を冒して宇宙船外にある太陽電池から直接ニマーニの充電池を充電しようとする。

強い放射能を浴び、宇宙船のコンピュータが帰船を指示するも充電し続ける。

ニマーニの機能が完全停止するまであと数秒というところでミルーティンは充電池をニマーニにセット。

ギリギリのところで再起動したニマーニは、生死不明のまま横たわるミルーティンを抱きかかえてキスをする。

AIライジングのテーマを解説

人間の男が女性型AIに恋をするというモチーフは様々な映画で描かれています。

●エクス・マキナ
●her/世界でひとつの彼女

このあたりが有名です。

AIライジングも人間の男が女性型AIに恋をするというモチーフは同じですが、テーマはそれぞれ異なります。

「エクス・マキナ」のテーマは「テクノロジーへの警鐘」です。「人類は滅びるべき」だというアレックス・ガーランド監督の世界観が怖い物語。

「her/世界でひとつの彼女」のテーマは「人間関係における願望や恐怖」です。テクノロジーの進化や警鐘をテーマにしているのではなく、スパイク・ジョーンズ監督は「AIが完全な意識を持ったとしたら、人間とどんな関係を築けるだろうか?」という問いかけをしています。

アレックス・ガーランドが非常にペシミスティックな世界観を持っているのに対し、スパイク・ジョーンズは反対の立場に立っているように感じます。

同じAI恋愛ものでも「エクス・マキナ」と「her/世界でひとつの彼女」は違うわけですが、AIライジングも同じモチーフでありながら、問いかけているテーマは異なります。

AIライジングのテーマとは?

僕はAIライジングが問いかけているのは、「人は”他者”の存在なしに生きていけるのか?」ということではないかと感じました。

ここで言う”他者”とは他人という狭い概念ではなく、エマニュエル・レヴィナスが言うところの”他者”です。

レヴィナスが考える「他者」とは、「私の主張を否定してくるもの」「私の権利や生存にまったく無関心なもの」「私の理解をすり抜けるもの」ということです。

簡単にいうと、自分の思い通りにならない存在はすべて”他者”です。

※ちなみに、”他者”という概念は人間に限ったものではありません。自然(世界)なんて人間の思い通りにならない最たるものですが、これも”他者”です。

例えば、SNSでのやり取りを見ているとよくわかりますが、何かの意見を発言すると、必ずそれに反対する意見が出てきます。

ホリエモンが「自粛なんか意味ねー」と言えば、「アホか。うろついて他人を感染させるのか!」と吹きあがる意見が出て来ます。

そして今度はその意見に対して、「経済で人が死ぬじゃないか!」という意見が出てきます。

(注:コロナ騒動の渦中にこの記事を書いています)

このように”他者”は無限に続く連鎖を引き起こします。

どのような言葉や理屈を述べても、それを否定する「他者」が存在することだけは決して否定できないというのがレヴィナスの主張です。

デカルトが「われ思う、ゆえに我あり」という思考にたどり着いたプロセスと似ています。

さて、”他者”というのは、このように自分の思い通りにならない存在ですが、だからこそ必要な存在だとレヴィナスは言います。

だって、”他者”の存在がないということは、世界はすべて自分の思うまま!ということになります。

「それは素晴らしい!」と思うかもしれませんが、この状態が続いたときに、人間はそれに耐えられるのでしょうか?

いつか、「なんか、つまんねー」と思うようになるのではないでしょうか?

人間は”他者”の存在があるからこそ、つまり自分を否定する存在があるからこそ、自己完結に陥ることなく、無限の可能性を信じることができるのではないでしょうか。

このような他者論の視座に立って「AIライジング」を見ると

ここまで読んでいただいたなら、ニマーニがどんな存在として描かれているかおわかりでしょう。

OS削除以前のニマーニは”他者”ではありません。ミルーティンの思うがままですから。

これにミルーティンは不足を感じるようになっていきます。

それが一番よくあらわれているシーンがニマーニの性格モードを「口論」に設定する場面。

しかしそれでもしょせんはプログラムなのです。本当の意味での”他者”ではありません。

そしてミルーティンはニマーニを”他者”にするために危険を冒して宇宙船にトラブルを起こし、上級アクセス権を手に入れてニマーニからOSを削除するのです。

(ふつう、OSを削除したらニマーニが起動するはずないんですが、まあ映画ですから)

ここまでしてミルーティンは”他者性”を欲したのです。

OSを削除して起動したニマーニはミルーティンに対して反抗的な態度をとるようになります。

まさに思い通りにならない”他者”の出現です。

しかし思い通りにならないニマーニにフラストレーションをぶつけ、やがて探査任務の遂行が危ぶまれるほど鬱状態になっていきます。

”他者”は人間にとって必要不可欠だけど、怖い存在でもあるということです。

そしてラスト、思い通りにならないニマーニを放置しようとするミルーティンですが、ニマーニが自分を破壊するため放電したことに気付くと、命がけでニマーニの充電池を充電します。

何としても守りたかったのです。

これを「人間はAIを愛することができる」「そしてAIは人間の感情に応えることができる」と解釈してもいいでしょう。

しかし僕は「人間が生きるために必要なのは”他者”である」と見たほうが、この映画を面白く見れるのではないかと思うのです。

セルビアってどんな国?

セルビアの映画ってあまり見る機会がなかったし、そもそもセルビアという国のことをよく知らなかったので、AIライジングを見た機会に調べてみました。

セルビアという国のことを調べたおかげで、AIライジング冒頭で、なぜ社会主義を否定するのかというやり取りの意味がわかりました。

ちなみに冒頭でエデルレジ社の女性がミルーティンに「チュチェ思想を広めてほしい」と話す場面がありますが、これは完全に北朝鮮への揶揄でしょう。

チュチェ思想とは朝鮮民主主義人民共和国・朝鮮労働党の政治思想です。

マルクスレーニン主義を基に、金日成が展開した独自の国家理念。

人間は自己の運命の主人であり、大衆は革命・建設の主人公ではあるが、民族の自主性を維持するために人民は絶対的権威を持つ指導者に服従しなければならないという思想です。まあ支配者に都合の良い思想ですね。

話がそれましたが、セルビアはとても複雑な歴史を持つ国です。

めっちゃ簡単にまとめると

セルビア王国

ユーゴスラビア王国

ナチスによる占領でユーゴスラビア王国消滅

ユーゴスラビア連邦人民共和国

ユーゴスラビア社会主義連邦共和国に改名

ユーゴスラビア連邦共和国

セルビア・モンテネグロ

セルビア共和国

一時期社会主義国家だった時期もありますが、当時のソ連とは仲が悪くなって、独自の社会主義体制をとったようです。

自主管理社会主義といって、通常のトップダウンの制度ではなく、ボトムアップの制度だったようです。

冒頭のセリフのやり取りはこのような背景を理解していると、「ああ、そういうことね」と納得できます。

そういえば、作中でミルーティンが「社会主義でも自己管理派だが仕事ならやる」というセリフを口にしていますが、これも上記のような歴史を持つ祖国への批判的な意味が込められているのかもしれません。

イデオロギーで争いをするなんてくだらん!という心の叫びでしょか。

以上、AIライジングの解説でした。

この記事を読んでいる方は、ほぼ鑑賞済みだと思いますが、もしまだ見てないよという方は、こんなこと頭に入れて見ていただくと楽しめるかもしれません。