映画アナイアレイションを見た感想と、監督アレックス・ガーランドが伝えたかったことは何かについて私見をまとめました。

ネタバレレビューなので、ネタバレが嫌いな方は視聴後に読んでいただければと思います。

まずはアナイアレイションの感想・見どころを箇条書きで思いつくまま

・アナイアレイションはアレックス・ガーランドなりの創世記。しかし人類の創生の物語ではない。むしろ逆。

・期せずして現代アート展に迷いこんだ心境になる。映像綺麗!

・インテリジェンスを強烈に刺激される映画

・前作「エクス・マキナ」(人工知能が生みの親に反乱)から続けてみると鳥肌もの。アレックス・ガーランドの世界観を堪能できる。

・熊みたいなクリーチャーのサウンドエフェクトに戦慄を覚えた。食い殺した女性隊員の「HELP」という叫びを鳴き声として発声している。

・最後のレナの虹彩が揺らめくシーンの解釈が悩ましい

・細かい設定を気にして見てはダメ。「生還者が1人しかいないエリアXの調査に入るのに準備しなさすぎ」などというレビューは的外れ。この映画は社会に、というより世界に何を問いかけているのかを考えながら見る映画。

・何も考えずに見たいときに見るとストレスがたまる映画(解釈が難しい)

アレックス・ガーランドが伝えたかったことは何か?アナイアレイションのテーマは何か?

・人類は滅びるべきだ。人類はそれを受け入れなければならない。

前作「エクス・マキナ」に引き続き、人類は滅びる存在だということをペシミスティックに描いた作品だと思います。

(それによって、人類に覚醒を促したいのかな?と思いたい)

人によっては人類の再創造を描いているとオプティミスティックに捉えているようですが、私は違うと思います。

その理由をこれから説明していきたいと思います。

その前に、作品情報、あらすじを簡単にまとめます。

アナイアレイション作品情報

「アナイアレイション -全滅領域-」は、2018年に公開された米英合作のSF映画。

原作:「全滅領域」(ジェフ・ヴァンダミア)2014年
監督 : アレックス・ガーランド
出演 : ナタリー・ポートマン
オスカー・アイザック
ジェニファー・ジェイソン・リー
ジーナ・ロドリゲス
ソノヤ・ミズノ、他

アナイアレイションあらすじ

海岸に立つ灯台に宇宙からの飛来物(彗星?)が直撃。その付近に異様な生態系が発生。シマーと呼ばれるエリアが発生(エリアX)。

そこでは一つの株に複数の花を咲かせる植物、異形のクリーチャー、人型の植物、人間を取り込む壁など理解不能な現象が展開する。

元陸軍軍人のレナは生物学教授として大学で勤める。1年前に軍の極秘任務で生死不明になっていた夫のケインが自宅に突然戻ってくる。

しかし、戻ってきたケインは記憶を失っている様子。食事中ケインはいきなり吐血し倒れる。救急車で搬送中にレナとケインは軍隊に連行される。連行された先はシマーの謎を解明するための研究施設だった。

その施設でレナはシマーの存在を知るとともに、夫のケインがシマーの調査に入って生還した唯一の人間であることを知る。

その他の調査員は全滅。このままでは地球はシマーに飲み込まれてしまう。

研究所はヴェントレス(ジェニファー・ジェイソン・リー)という心理学者を中心として新たな調査部隊をシマーに派遣する。レナは倒れた夫の秘密を探るために調査隊に志願する。

5人の女性調査隊はシマーに潜入するが、異形のクリーチャーに殺されるなどひとり、またひとりと減っていく。

最後にたどり着いた灯台(シマーの発生源)で目にした衝撃の光景とは・・・

レナは無事生還できるのか!?

アナイアレイションのテーマを探るヒントになるセリフ

映画を通して社会や世界に伝えたいことは、俳優のセリフにヒントがあることが多いです。

アナイアレイションの場合は次のセリフがテーマを探るヒントになるでしょう。

まずは映画冒頭でレナが大学の講義で発したセリフです。

全ての細胞は既存の細胞から生まれる
つまり全ては一つの細胞から始まった
地球上あるいは宇宙にたった一つ
生命体が生まれた
約40億年前のことよ
それが2個になり次に4個になり
それから8個になり16個32個と分裂を続けて
今地球上に存在する全ての微生物や
植物、海や陸の生き物、そして人間になった
生きて死ぬ全ての存在をかたち作っている

次にシマーの内部でヴェントレスとレナの会話です。

自殺する人は一部
でも自己破壊は誰でもする
何らかの形でね
お酒、タバコ、キャリアを傷つける 結婚
理性的な選択ではなく、衝動よ
自己破壊は私たちの細胞に組み込まれている

こんなセリフがあったことを思い出しながら、私なりに考察を進めていきます。

アナイアレイション考察|テーマは「人類は滅亡するべきだ」

最初に書いた通り、アナイアレイションで監督アレックス・ガーランドが表現したかったことは、

人類は滅びるべきだ。それを受け入れなければならない。

こういうことだと思います。

ゾロアスター教や、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教には「最後の審判」という終末観があります。

世界はやがて終末を迎える。そのとき神が最後の審判を行い、生前の行いを審判され、天国か地獄行きかを決められるという信仰です。

天国に行ったものは永遠の命を与えられます。

シマーのモチーフはまさに最後の審判ではないでしょうか。

最後の灯台のシーンでヴェントレスが口から光を吐き出していたのは、ラッパを吹く天使に思えてなりません。

シマーに入った5人の女性は審判を受け、自己破壊衝動を持っていた人間(リストカット常習者・麻薬常習者など)が次々に殺されていきます。

救済されず、地獄に落ちたということでしょう。

問題は最終、灯台で起こるシーンです。

ここをどう解釈するかで、この映画からどんなメッセージを受け取るかが変わってきます。

灯台の中に放置されていたビデオカメラを見たレナは、帰ってきた夫が本物の夫でないことを知ります。

シマーの中で生まれたケインのコピーだったのです。

ケインは灯台の内部で自分のコピーに遭遇し、そのことに恐怖し、爆弾で自分自身を破壊してしまいます(自殺を選択しました)。

映画冒頭でレナのもとに戻ってきたのはシマーの中で生まれたケインのコピーだったのです。

コピーとはいえ、ケインの記憶まではコピーできていないようです。

ケインの記憶がないということは、もはやコピーというべきではないかもしれません。

外見はケインですが、別人です。

いや、人ですらなく、シマーで生まれた新たな生命体と考えたほうがいいかもしれません。人ならざるものです。

解釈が悩ましいのがレナのほう。

レナは自分のコピーと戦い、コピーを消滅させてシマーから帰還します。

これを見ると、最後の審判を拒否し、運命は自分で切り開く的なポジティブなメッセージと受け取れます。

カインとレナをアダムとイブに見立てて新たな世界が創造されると考えることもできるかもしれません。

しかし私にはそうは思えません。

理由は2つあります。

一つ目の理由は、先ほども書いた通り、ケインが人ならざるものであること。

ここで冒頭のセリフの意味がわかってきます。

全ての細胞は既存の細胞から生まれる
つまり全ては一つの細胞から始まった

地球が誕生して、一つの細胞からやがて人類が誕生しました。

しかしコピーされたケインは人類と同じ一つの細胞から生まれたのでしょうか?

違います。

宇宙から飛来した隕石だか彗星だかがもたらした細胞から生まれたものです。

今度はこの細胞がはじまりとなって新たな世界が作られるのです。

最後のレナのセリフを見てみましょう。

ケインじゃない。そうね?
ああ
君はレナ?
・・・・

レナは答えられません。

そしてレナの左手に生じた∞のマーク。

シマーから帰還したレナも人ならざらるものになっていたのではないでしょうか(シマーで最後の審判により永遠の命を与えられた)。

少なくともレナ自身、自分が本当に自分であるのか確信が持てなくなっています。

最後にケインと抱擁しながら、レナの虹彩が揺らめきます。

これは仮にレナがまだ人間であったとしても、別人であるはずのケインを受け入れた(つまり人ならざるものを受け入れた)ということ。

レナが人類の滅びを止めることはできないと諦観したサインであるように、私には思えます。

二つ目の理由。これは単純なのですが、監督であるアレックス・ガーランドのインタビューを読んでいたからです。

アレックス・ガーランドの監督第1作である「エクス・マキナ」が公開された直後のインタビューで彼はこんなことを言っています。

人間はこの星で滅びるんだ。それは環境破壊のためかもしれないし、太陽系や太陽で起こる変化のためかもしれない。でもそれが起こるとき、われわれは決してワームホールを通り、別の銀河に行って、古くからある生存可能な惑星を見つけることなんてない。そんなことはありえなくて、われわれの代 わりに生き残るのは AI なんだ。 もちろん生みだせればの話だけど。 問題はなにもない。むしろ望ましいことだよ

彼は非常にペシミスティックな未来観を持っています。人間への絶望なのか、嫌悪なのか、それともその奥底には期待があるのか・・・

エクス・マキナではAIによって、アナイアレイションでは宇宙からの飛来物によって、人類の滅びを描いています。

その根底には人類が覚醒して、地球に対しての責任を自覚することを促す意図があるのでしょうか?わかりません。

レナがシマーの調査に志願した本当の理由とは?

エリアXの調査に入って帰還したのは夫であるケイン(らしきもの)だけだったにも関わらず、レナはなぜ危険な調査に志願したのでしょうか?

夫への愛から、夫の症状の秘密を探るため?

献身の気持ちから?

そうではないでしょう。

レナは大学の同僚と不倫をしていて、それがケインにバレます。

おそらくそれが原因でケインはシマーの調査に入ったのです。

レナはそれがわかっていた。だから愛や献身といった利他的な想いから調査隊に志願したのではありません。

あくまで贖罪の気持ちからであり、自分で自分を赦すために危険に身を投じたのです。

つまりは利己心から。

キリスト教の価値観に立つならば、レナが最後の審判を受けたとして天国に行けるとは思えません。

アナイアレイションの興収。Netflixオリジナル作品となった理由。

アナイアレイションはパラマウントが42億円の予算を投じて制作した作品です。

全米で公開されたのですが、17日後にはNetflixオリジナル作品として配信されています。

なぜでしょうか?

それはパラマウント側が「作品があまりに複雑であまりに知的で、一般ウケしないので書き換えろ」と監督に要求したのです。

しかしガーランドはこれを拒否。

その結果、大きな赤字が出ると危惧したパラマウントが配給権をNetflixに売却したのです。

ちなみにアナイアレイションは全米の2000館ほどで公開されましたが、最初の週末で12億円の興収にしかなりませんでした。

その後6週間で34億円まで伸ばしましたが黒字にすることはできませんでした。

結果的にパラマウントの判断は正しかったと言わざるを得ないのですが、この作品は映画館で見たかった!

映画館の大スクリーンで見ればもっと没入できたのに!