アンドリュー・ニコル監督ANON(アノン)の感想とネタバレ解説記事です。

感想をひとことで言うと、「面白くなくはないけど、ガタカには遠く及ばない」というところです。

ガタカの完成度が高すぎて、アンドリュー・ニコルの作品を見るときは、どうしてもハードルが高くなっちゃうんですよね。

●ある書物の引用からのスタート。
●未来なのにレトロな雰囲気。

という、まさにガタカを想起させる作品なので余計に期待が高まった分、ガッカリ感が大きかったのかもしれません。

アンドリュー・ニコルが何を伝えたいかはわかるんだけど、作品に没入しきれない理由が2つあります。

そのため映画が伝えたいメッセージに重みを感じませんでした。

その2つの理由をメインに書いていきます。

まずは作品概要から。

ANON(アノン)作品概要

ANONとは「anonymous(アノニマス)」=匿名の という意味。

全ての人間の記憶が記録され、閲覧可能となった近未来が舞台。個人のプライバシーや匿名性が無くなった代わりに、犯罪も起こらない(起こせない)究極の管理社会だった。そんな社会で起こるはずのない殺人事件が発生。容疑者として、ハッキングにより記録を消去できる女、ANON(アノン)が浮上。おとり捜査で彼女と接触を試みるが・・・

ANON(アノン)ネタバレ解説

この作品に没入できない理由の1つ目は、怖さが伝わってこないこと

アンドリュー・ニコルのテーマは一貫して「テクノロジーへの警鐘」です。

ANONでは国家権力によるプライバシー侵害が究極に達した社会の怖さを描きたかったんだろうと思うのですが、この映画からはその怖さが感じられないんです。

アンドリュー・ニコルが今作で伝えたかったことは50分あたりから始まる警察局長とサルの会話に凝縮されています。

特に次のやり取りです。

局長:被害者が消されたことはどうでもいい
あの女を探せ
彼女は自分を殺したも同然

サル:殺人よりも匿名化が問題だと?

局長:そうだ やっとわかったか

国家権力による国民の完全監視未来がやってくるかもしれない。プライバシーを奪われることと、重犯罪のない社会のどちらを選ぶのだ?

そんな問いかけをしたい映画だと思ったのですが・・・その怖さがまったく伝わってこないんです。むしろ逆に便利な社会が描かれているような・・・

冒頭、主人公のサル(クライヴ・オーウェン)が時計を飾っているショーウインドウの前で立ち止まると、時計を腕に試着したイメージがビジョン化されます。バーチャルフィッティングですね。

これって、めちゃくちゃ便利じゃん!いい世界じゃん!って思います。

次にサルが人々の記憶を検索して、事件の真相に到達し、犯人を摘発するシーンが描かれます。

そこには実用性があり、説得力もあります。国家権力(警察)が私たちの見聞きしたものをすべて記録しているという前提には嫌悪感を覚えますが、この映画では、その前提に内在する道徳的な問題以上に、テクノロジーを有効利用している刑事(サル)がいます。

それで恩恵を被っている人々も描かれています。

国家権力による監視の恐怖を描きたかったのではなく、自分の視覚を乗っ取られることの恐怖がメインだったのか?

もしくは自分の大切な記憶を消される恐怖?

そうであれば、こちらの恐怖は伝わってきます。

65分あたりからサルの視覚が乗っ取られたシーンで、暴漢にいきなり襲い掛かられたり、大量のネズミに迫られたり、このあたりはゾッとします。

自分の不注意で息子が車にはねられて死んでしまうシーンをループされたりしたら、確かに地獄ですよね。

さらにもっと怖いのは、大切な息子との記憶まで消されてしまうこと。

視覚(記憶)を操作される恐怖は伝わってきました。

でも、中途半端にしか描かれなかったのが残念。

こっちの恐怖をメインにしたほうが、怖さを感じやすい映画になったのではないかと思います。その分、メッセージ性は軽くなりますけど。

何かを言いたげなドラマであることは感じるのですが、アンドリュー・ニコルはそれを説得力を持って説明できていないと感じます。

この作品に没入できない理由の2つ目は、無駄なシーンが多いこと

例えば、58分あたりからサルとアノンのベッドシーンが描かれますが、すごく唐突感があって「このシーン、いる?」と思ってしまいました。

サルがアノンに共感していく過程の描き方が雑すぎでしょう。

この辺もどうしてもガタカと比べてしまうんですよね。

アイリーン(ユマ・サーマン)がビンセント(イーサン・ホーク)に惹かれていく様子はリアリティがあったし、ベッドシーンもすごく効果的でした。

それと比べるとANONは置いてけぼりにされた感がハンパないんです。

映像はスタイリッシュでカッコいいし、アマンダ・セイフライドは美しいし、クライヴ・オーウェンは渋いし、キャストはいいんだけど、暇つぶしに見るSF映画としては楽しめるんだけど、どうしても物足りないと感じてしまう映画でした。

アンドリュー・ニコル監督!いつかガタカを超える映画を作ってください!

ANON アノン(字幕版)


ガタカ (字幕版)