もしあなたが過去の記憶を失ってしまったとしたら、どんな気分になるでしょうか?

友人や家族のこと、そして自分の名前さえわからなくなってしまったら・・・。

不安に駆られて、正気を保っていられなくなるのではないでしょうか。

取り戻せるものなら、いや、なんとしても取り戻したいと思うのではないでしょうか。

今回紹介する映画「リメインダー」のテーマは記憶です。

事故により記憶を失ってしまった主人公が、断片的に脳裏に浮かぶイメージを頼りに記憶を再構築していく映画です。

その再構築のやり方が狂気です。思わず引き込まれます。

ちなみに、この映画の主人公には名前がありません。全編通して、一度も主人公の名前が呼ばれることがないのです。自分が何者かわからないことを強調したかったのでしょう。

リメインダーの評価はというと、「リメインダー 感想」とか「リメインダー レビュー」とかで検索していただければわかる通り、めちゃめちゃ評価の低い映画です。

こんなレビューが並んでいます。

●完全に時間のムダ。駄作。
●ビックリするほど面白くない。眠くなる。
●マジでつまらなかった。今年見た映画で最低だった。
●意図がまったくわからない。

まあ、ひどいもんです。

しかし私には、世の中の評価の低い映画に興味を持つという”怖いもの見たさ”的なクセがあります。

ということで、「リメインダー」を見たのですが、マジ良かった

続けて2回見ましたから。

面白くないという人の感覚がちょっと理解できません。

この記事ではリメインダーのあらすじ、感想、そして考察とレビューをお伝えします。

リメインダーはどう見るべきなのか?監督は何を伝えたかったのか?

このあたりを中心に考えていきたいと思います。

※完全ネタバレしますが、この映画はネタバレされたからといって見る価値がなくなる映画ではありません。それでもネタバレが嫌いな方は見終わってから、ぜひこの記事を読んでください。

リメインダーのあらすじ

2015年イギリス・ドイツ映画。

トム・スターリッジ「パイレーツ・ロック」(2009)主演。突然の事故で記憶を失くしてしまった主人公。850万ポンドという巨額の示談金を使って、ボンヤリと頭にイメージの残る建物を買い取り、役者を雇って、記憶の断片を完璧に再現しようとします。リアルさにこだわるあまり、死人も出てしまいます。狂気の果てにたどり着いた結末は・・・

トム・マッカーシーによる原作小説「もう一度」を、映像作家のオマー・ファストがシュールな世界観で描いています。

監督:オマー・ファスト 

出演者:トム・スターリッジ(青年)、クーシュ・ジャンボ(キャサリン)、エドワード・スペリーアス(グレッグ)、ニコラス・ファレル(ドーバニー)、ジュメイン・ハンター(クリストファー)、アーシャー・アリ(ナズ)ほか

リメインダーを見た感想

この映画を面白くないという人の気持ちがわかりません。見終わった後、思わずうなってしまい、即座にもう一度見直したくらいハマりました。

何が面白かったかというと、

●アイデンティティとは何か?
●人が幸せに生きるためにはどうすればいいのか?

この2点について深く考えさせられたことです。

ホント、深いですよ、この映画。

これらは最後に考察のところで説明します。

なぜリメインダーは酷評されるのか?

最初に書いた通り、リメインダーは酷評する人の多い映画です。

なぜここまで酷評されるのか?

それは、映画内で提示された謎がまったく回収されないから。つまりストーリーとして成り立っていないのです。

この映画ではさまざまな謎が提示されます。

●電話ボックスで主人公を襲おうとした2人組のおっさんは何者?警察と名乗っているが警察ではありえない。クリストファーを殺しているし。

●なぜクリストファーは殺されたのか?

●クリストファーが銀行強盗をしたのは濡れ衣か?本当か?

●キャサリン・サリバンは銀行強盗に加担していたのか?

●マンションでの老婆のセリフ 「あんたは見落とした」とはどういう意味なのか?

これら興味深い伏線を張っておきながら、まったく回収されずに終わります。しかも、見た人それぞれに考えてもらいたいという類の終わり方ではなく、まさに放り投げた感じです。

普通に見ると、「なんだ、これ??」とストレスしか残りません。

映画のテイストも明るいものではなく、むしろ暗いし。

だからストーリーを楽しみたいっていう人にはまったく不向きな映画です。

逆にいうと、この映画はストーリーを追ってはダメな映画なのです。

リメインダー考察とレビュー|この映画が伝えたかったことは何か?

まずはこの映画を考察してから、監督が伝えたかったことは何かについて考えてみます。

まずは考察から。

この映画を見た後は、現実感を喪失させられるでしょう。

夢から覚めたと思ったら、それも夢だったみたいな感覚といったらいいでしょうか。この映画はそのような無限ループを描きます。

事故によって記憶を脱落させられた主人公が断片的なイメージを頼りに、大金を使って再現ドラマを作ることで、記憶を再構築していきます。

再構築をする過程で銀行強盗を行い、逃げている途中で、最初に事故にあった現場に再帰するという結末。

そしてまた同じことを繰り返す・・・これが無限ループで繰り返されるということでしょう。

同じことが反復されるというモチーフを描いていることは、いくつかのシーンでも暗喩されています。

冒頭近く、ヒゲもじゃの主人公が電話ボックスから弁護士に電話をかけるシーン。

電話ボックスのガラスについている傷を主人公が指でなぞるシーンがありますが、その傷とはこんな形をしています。

無限ループですね。

さらに、主人公がアパートを買い取り、俳優を集めて役割を説明するシーン。

ピアニストにこんなセリフを投げかけます。

「ショパンの軌跡をなぞれ。彼が最初に書いたものから始め、最後までいったら最初に戻れ」

これも無限ループを暗喩しているのではないでしょうか。

そして最後のシーンです。最後のシーンを見た後、もう一度冒頭の30秒を見れば、「ああ、そういうことか」となります。

リメインダーは“記憶”をテーマとして扱っています。

記憶をテーマに扱った映画はいくつかありますが、印象に残っているのがトータル・リコールです。リメイクされたほうじゃなくて、アーノルド・シュワルツェネッガーが出てるほう。

この映画はどこまでが現実で、どこからが夢なのかわからないという虚構の世界を描き、自分の記憶を取り戻すために火星に飛び立って戦い、記憶を取り戻すというお話でした。

(実は記憶を取り戻す戦いをしたことも夢だったのですが・・・)

謎あり、アクションありのハリウッドらしい作品です。原作がフィリップ・K・ディックの短編『追憶売ります』なので、ストーリーも面白い。

一方、リメインダーはストーリーラインがめちゃくちゃ。映画内で提示されるさまざまな伏線的な謎もまったく回収されない。

そんな映画を作って、監督はいったい何をしたかったのでしょうか?

リメインダーが伝えたかったこととは?

この映画が伝えたかったことは、こんなことじゃなかったかと思うのです。

●アイデンティティとは何か?

●人が幸せに生きるためにはどうすればいいのか?

アイデンティティとは何か?

自己同一性と訳されますが、要は「自分らしさ」「他ではない自分自身」ということです。

アイデンティティは親の影響、社会の中で他人と関わる中で形成されていくもの。つまり経験(記憶)によって作られていくものです。

主人公が記憶を失ったということは、つまりアイデンティティを失ったということ。自分が自分でなくなるということです。

これは相当な恐怖でしょう。記憶(自分)を取り戻そうとする主人公の狂気は理解できます。

しかし、記憶を取り戻すことは、本当に幸せにつながるのでしょうか?

人が幸せに生きるためにはどうすればいいのか?

人は誰でも忘れたい記憶、思い出したくない記憶があるでしょう。「記憶を捨てることで幸せになれることもあるよ」ということを逆説的に描きたかったのかなとも思ったりしました。

とても暗い雰囲気の映画ですが、実は「過去の嫌な記憶にこだわるのではなく、前を向いて生きていこうよ」というポジティブなメッセージが込められているのかもしれません。

監督オマー・ファストとはどんな人物?

映画は監督の思想が反映されるものですから、監督がどんな人物なのかを知ることで、映画が伝えたいことを知る手がかりになります。

では、リメインダーの監督オマー・ファストとはどんな人物なのでしょうか?

1972年エルサレム生まれ。ニューヨークで10代の大半を過ごし、タフツ大学とボストン美術館附属美術大学を経て、2000年にニューヨーク市立大学ハンター校で修士号を取得。現在はベルリンを拠点に活動している。記憶や歴史の不確かさを出来事の反復やメディアの介在を通じて露わにする映像作品は国際的に高い評価を受けている。

こんな人物です。映画監督ではなくビデオアーティストです。

上記の通り、オマー・ファストはもともと「記憶や歴史の不確かさを出来事の反復やメディアの介在を通じて露わにする映像作品」を作るのが好きなんですね。

それを映画にしたらリメインダーになったということでしょう。

では、なぜオマー・ファストはこのような作品を作ることが好きなのか?

それは彼のインタビューを見ているとわかります。

私は安定したアイデンティティや出自を持っていません。集団的なものであれ個人的なものであれ、ある人物のアイデンティティがその人物の規範や行動にどれだけ影響するのかということを早い段階から意識していたので、内側と外側の両方から考えることは、私にとって非常にクリティカルなことなのです。構造上、こうした複合的もしくは分裂した視点は、目撃談(自発的な仕方で何かを伝える話者)を疑うような物語として考えたり、あなたが言うところの「入れ子状」の物語を好む傾向にありますが、しかし、それは破綻した、断片的で、さまざまな意味を持つ物語だと言われることもあるのではないでしょうか。

オマー・ファスト インタビュー

オマー・ファストの「私は安定したアイデンティティや出自を持っていません。」という言葉がすべてのヒントになるでしょう。

彼は自分自身が安定したアイデンティティを持っていないことから、逆にアイデンティティというものに興味を持ち、アイデンティティが人の行動にどんな影響を与えるのかを観察するようになったのです。

リメインダーはアイデンティティの形成過程を描いた作品であるともいえます。

そこを意識して見ると、「意図がわからない」という残念な感想を持たずに映画を楽しむことができると思いますよ。